第11回「田んぼと生き物」(2014年6月放送)

 田んぼで稲を育てていることは、皆さんも景色を見てわかると思いますが、カエルやトンボが、田んぼで生まれ、育まれるということをご存知でしょうか。

 「田んぼの学校」と称する授業で、生き物調査などをすると、オタマジャクシやヤゴが見つかります。すると「なぜカエルやトンボは田んぼで生まれるのか?」と聞かれることがあります。答えは、彼らにとって田んぼが気持ちいい環境だから、としか言いようがないのです。田植え前の代掻きが終わると、田んぼの水は落ち着き、太陽の熱で温められます。田んぼには有機物が多く、動物性プランクトンなど小さな生き物が爆発的に増えます。水の流れはなく、大雨で流されることもなく、農家は稲を育てるために極力水を温かく保とうと努力します。それが結果的には最高の住み心地なのかもしれません。

 最近、カエルやトンボが少なくなった、農薬の使用のせいだと短絡的に語られることが多くあります。しかし、我が家の無農薬の田んぼも除草剤だけ使った減農薬の田んぼも無数のカエルが生まれ、トンボが羽化します。

 私が考えるに、「中干し」といって、6月中旬に田んぼを乾かす栽培技術があるのですが、これをすると田んぼから水が無くなります。当然、水の中で生きているオタマジャクシやヤゴが生きられなくなります。我が家では、彼らが成長し終える7月まで中干しを遅らせたり、江という常時水をためておく水路を作り、生き物の逃げ込む場所を確保しています。彼らのエサは、稲の害虫と言われるカメムシなどの小さな生き物ですので、成長すれば、稲を育てる上で、強力な応援団となってくれます。

 このように、中干しを遅らせるなど、ほんの少しの気遣いで、この応援団を増やすことができると考えています。

 農家はとかく、稲の成長にだけ気を配りがちですが、稲の株元でひっそりと生きている無数の生き物のことについても考えてみたいです。多様な生き物が暮らす田んぼのお米は、美味しく育つに違いない、と思いながら彼らを見つめています。

 もうすぐ、田んぼで生まれたオタマジャクシはカエルへと成長し、トンボたちが羽化を迎えます。ちょっと早起きして田んぼに出かけてみませんか。朝日を浴びてキラキラと光る姿に出会えるかもしれません。