第3回「人の輪が醸す日本酒づくり」(2014年4月放送)

 それは、3人の遊び心から始まりました。

 日本酒を飲みながら、気心が知れた仲間と腹の底から笑いあう。私はこれ以上の至福の時を知りません。飲み過ぎた次の日、朝ごはんが食べられない日も、夕方にはまた、「飲みたい」と思える。こんな馬鹿げた欲求に流されることも嫌いではありません。5年程前の、とある宴席でのひとコマ。「秋葉区のさぁ~、人と米と水で日本酒を醸せないかな!」全ては、この言葉から始まりました。そこに居合わせた、秋葉区唯一の蔵元、そして農家である私。もうこれは運命だ!とさえ思いました。「はい!私が酒米作ります!」瞬間的に言葉が口をついて出ていました。何のプランも酒米に関する知識もない中、初めての酒米作りはスタートすることとなりました。

 見切り発車的に始まった米作りでしたが、妙に自信だけはありました。品種は杜氏からのリクエストで「たかね錦」という品種に決まりました。長野県で誕生したお米で、鑑評会出品の酒などに用いられていたというお米、もちろん育てるのは初めてでしたが、「まぁ、何とかなるでしょ、秋には心白がバッチリ入ったキレイなお米が沢山収穫出来るはず!」と思っていました。

 しかし結果は、自分にとってはとても満足のいくものではありませんでした。本当に関わって下さる皆様に「ゴメンナサイ」という気持ちで一杯でした。そんな時、「大丈夫だて、俺に任せておけて~。」杜氏のひと言に救われたのを覚えています。

 蒸し、糀、仕込み…酒造りにも3人で携わりました。そして、仕込みから約1ケ月後、祈るような気持ちで迎えた試飲。チョロチョロと自然に流れ落ちてくる原酒。目を閉じてそっと口に含むと、そこに広がったのは、田植え直後の夕暮れ時、鏡のような水面に映る月のような幻想的な光景でした。他のどの日本酒を飲んだ時も感じたことの無い感覚。種籾を水につけ、種を播き、苗を育て、田植えから真夏の水管理、稲刈りそして仕込み。1年間の記憶が日本酒の味に甦ったような感動。

 目を開けると、そこには仲間の笑顔がありました。「どう、旨いだろ」日本酒のもつ無限の可能性を感じた一瞬でもありました。
秋葉区の「人」と「米」と「水」で醸す日本酒。そのお酒が発するパワーは、「チーム嵩村桂」といううねりを生み出し、酒販店、洋菓子店、飲食店の仲間に広がってきています。

 仲間で笑いながら協力し合い、一つのものを育て上げる。農業と酒造りが地域と融合し、すべての過程で思いを込め、秋葉区の人・米・水を味わう。軽いノリで始めたつもりでしたが、なんだか楽しくなってきました。日本酒って最高ですね!