第1回「私の想い」(2014年4月放送)

 みなさま、はじめまして。新潟市秋葉区で農園を営んでおります。高塚俊郎と申します。これから半年間、よろしくお願いいたします。

 ところで、皆さんは、トンボが羽化するのを見たことがありますか。私の住んでいる地域では6月下旬の早朝、朝もやのかかった田んぼに入ると、羽化したばかりのトンボが少し頼りない感じで一斉に飛び立ちます。羽根は完全に乾いておらず、朝日を浴びてピカピカと光る姿に出会うと、田んぼは稲を育てているだけでなく、多くの生きものも育んでいる事に気づかされます。農作業をしていると、この他にも幻想的なシーンに出くわすことが多くあります。しかし、それも地球環境が安定しているからこそ見られるものです。
「今、地球環境がおかしい!」と感じているのは、私だけでしょうか。

 世界中で異常気象が当たり前のものとなり、様々な問題が私達の生活にまで及んできています。農業は自然環境の中で生きものが自分の力で育つのを、人間がほんの少しだけその成長の手助けをするものです。自然に寄り添い、作物の声なき声に耳を傾けながら育てあげ、それを必要としている人にお届けする。そんな素敵な仕事です。

 今後、異常気象による災害がおこるほどに、ますます環境問題に関心が集まっていきます。農業という産業の枠を超え、他産業と連携して持続的に環境活動に取り組み、私達が健康で幸せに暮らすことが出来る環境を維持し、多くを望み過ぎない豊かな心も育てていかなくては…などと、少々欲張りなことも考えています。

 21世紀に入ると、「スローフード」という言葉が盛んに使われるようになりました。1986年にイタリアの小さな田舎町からおこった運動ですが、そんな小さな動きが、今や世界中に波及してきています。

 日本でも、和食がユネスコの無形文化遺産として登録されました。それを契機として、長年その土地に伝わる郷土料理や特色ある伝統野菜などの食材、日本酒、調理器具、食器などの地元で生産されるものを見直そうという動きがおこっています。私たち農家は、作物を育てるだけでなく、「食」を取り巻く「食文化」や作物を育む「環境」、そして人を育む「教育」に対する造詣も深めなければいけないのではないでしょうか。

 そして、志を共有できる仲間と協力することによって、もう一歩、地域社会に貢献することができると考えております。

 こんな日本の小さな田舎町からでも世界を動かすようなムーブメントをおこせるかもしれません。

 農家として土を耕し、食べる人の心も耕していきたい。何が出来るか、まあ、気長に楽しく頑張ることにしましょう。